
浅草の鳥ごえ明神の鳥居前に、鳥飼屋鳥右衛門といふ富家の息子に、
鳥之介とて古今の鳥好き、今日は霜月の初の酉の日ゆゑ、鷲大明神へ参詣して、帰り足に吉原の仲の町、若鶴屋の見世先門口から
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鳥之介 |
「どふだ此の頃は」 |
女房 |
「これはこれは鳥さん、今日は初酉ゆへ、大方お立寄りは有らうと存じて心まちをしておりました。
マアマアこちらへ、これとりやとりや(注1)、お茶をお上げ申しな。もし旦那へ、今日の私が拵え(こしらえ)を御覧じて下さりませ」 |
鳥之介 |
「上着が山鳩ねずみの縮緬、紋が雁がね、下着が鶯茶、中形の縮緬、帯が烏羽繻子とは有りがてへ」 |
女房 |
「あなたのお気に合ふ鳥好きの大夫(たゆう)が昨日ひろめをいたしました」 |
鳥之介 |
「それは妙だの、呼んでくんねへな」 |
女房 |
「これ鳥助や、鳥好きの大夫さんを、さう言いな。マアおさかづき一つ召し上がりまし。お肴を早くよ」 |
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といふうちに表へ来たる黒出(いで)たちの大夫芸者 |